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力士の労働者性

今日、帰宅するとひとり息子が奇声を発しながら玄関まで走ってきた。
そして着替えをしている親父を、まだ途中にも関わらず洋室に引っ張って行き、窓からの電車見学に付き合わせた。
と、ここまではいつも通りの光景であったが・・・
洋室を出るときに何か踏んだような気がした。
が、暗くてよくわからなかった。
その後明るい廊下を走るひとり息子のパンツの辺りから、何やら小さい小石のようなものがポロポロ落ちる。
しばらく状況を飲み込めずにいたが、色々あってそれが、
「数時間前に経口摂取して、消化器官を通過したものの、吸収されずに排泄されたトウキビの粒」
であることが判明。
わかりやすい言葉に言い換えると、いわゆる「消化しきれずうんちょすとして元の形のまま出てきたトウキビの粒」である。
ひぃー、踏んでもうたし。

さて、そんな本日、以前からの宿題である「力士の労働者性」について考えてみた。
長文なので興味のない方はトウキビの粒の話を読んだところで終えて欲しい。

過去の判例、通達等から、以下の要件が全てYesに該当すれば、業務請負(個人事業主)に該当する可能性が高くなり、労働基準法上の労働者ではないかもしれない。
逆に全てNoであれば労働者性が高くなる。

まず、前提として、相撲取りに求められる業務が何かを定義しないといけない。
ここでは仮に、
 ▼相撲協会の興業における指定された取組に出場すること
であるとしよう。
それに付随する所属部屋における稽古もその一部としよう。

さて、具体的に見ていこう。
(典型的な請負契約の一つである注文住宅の建設の仕事は全てYesに該当するので、それと比較していただくとわかりやすいと思う)

1.業務遂行における指揮監督関係が無いこと

言い換えると、「おおまかな指示程度は良いが、こと細かく仕事の進め方に口出しされない」ということ。 
TV等見ていると、場所中はもちろん、稽古の段階でもかなりこまかく指示を出されているように見える。
Noだろう。

2.仕事の依頼・業務従事の指示に対する許諾の自由があること

言い換えると、「仕事そのものや、その進め方に関する指示を断れるか」ということ。
「秋場所は都合が悪いので出れません」
「その稽古方法には納得がいかないので従えません」
なんて言える自由は持たされていると思えない。
Noだろう。

3.労務提供の代替性があること

言い換えると、「自分以外の別の人間を使って、与えられた業務を遂行できるか」ということ。
「別の予定が入ったので、水曜日は別の者を稽古に行かせます」
「名古屋場所の4日目までは私が、5日目以降は弟弟子が代わりに出場します」
なんてことでは興業が成り立たない。
Noだろう。

4.時間的・場所的拘束性があまり無いこと

「明日の取組時間、ちょっと都合が悪いので、午前に変更して下さい」
「明日の稽古は梅田のスポーツジムで勝手にやっておきます」
といった自由は到底無く、場所、時間をかなり拘束されているであろう。
Noだろう。

5.報酬が労務ではなく一定の仕事の完成に対して支払われていること

言い換えると、「1時間いくら、ひと月いくらという支払われ方ではなく、この仕事を完成させていくら、で払われる」ということ。
規則(相撲協会寄付行為)を見ると、力士の給与は月給制とあり、十枚目(いわゆる十両)以上の番付に対し、具体的な金額が定められている。
業務委託の報酬を月額で定めることもあるが、月給という表現からは労働の対価としての給与という意味合いが高い。
また、お互いが話あって金額を決定するプロセスが無く、番付で一律に決まっている。
Noだろう。

他にも判断基準はあるが、これだけ否定する要素が揃うと業務請負(個人事業主)の可能性は極めて低い。
となれば労働基準法上の労働者である可能性が極めて高い。
これにて問題解決。

・・・と行きたいところであるが、そうすると、
①幕下以下の力士に対して給与が支払われていないこと
②力士を解雇する際に、30日以上の解雇予告や予告手当の支払いが正しく行われている様子がないこと
③労働基準法の規定を大きく超える減給処分が度々行われていること
等の疑問点が出てくる。

①は、このままでは最低賃金法違反であるが、次のように考えるとある程度解決できる。
幕下以下の力士の取組は、興業として成り立つレベルではなく、あくまでも十両以上の取組が入場料としての対価を徴収する対象である。
幕下以下の取組はそれに付随するいわばおまけである。
従って幕下以下は協会が雇用しているのではなく、育成をしているのである。
言ってみれば、武道・格闘技の練習生のようなものであるから給料は支払われない。
むしろ会費(月謝)を徴収してもおかしくない。

ただし、この場合、幕下以下の力士には取組および稽古への参加の自由が少なくとも建前上認められているいう前提が必要となる。

②、③については、私の頭では解決できる手段を見出せない。
結論を出すとすれば、労基法違反が行われているが、労働者が争う意思が無く、また、労働基準監督署が立入りをする様子も無い。
ということになろうか?

しかし難しい。
他にも、年次有給休暇の取得はどうなる?親方の立場は?など疑問点は色々と出る。
労働基準法上の労働者ではない、という理論が確立されているプロ野球選手の労働者性についても、未だに釈然としないものがあるし、芸能人、スポーツ選手の労働者性については足を踏み入れない方がよいのかもしれない。
ということにしてこの問題からしばらく逃げてみたりして。

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コメント

> パンツの辺りから、何やら小さい小石のようなものがポロポロ落ち

同じ光景に遭遇したことあります。踏みはしなかったけど…耳鼻科の待合室で転がっている姪のブツを発見し、こっそり拾ったこともあります。。

力士の労働者性。。お疲れ様でしたm(__)m
私も協会寄付行為を見ていたんですが、幕下以下の力士養成員となりやはり労働者ではないようですね。の健康、厚生年金保険料は協会負担のようですね。


投稿: | 2008年9月17日 (水) 20:49

すいません、上のコメント途中で送信されてしまいました。修正の仕方がわかりませんm(__)m

力士養成員の社会保険料は協会負担のようですね。

十両以上の力士の解雇予告手当については、根拠はないですけど、解雇後も給与は払っているような気がします。少なくとも1ヶ月分は。年休に関しても、たとえ休場しても欠勤控除されず給与は満額支払われていると思います。

プロ野球は労働組合がありますよね。そのうち相撲協会にも労働組合ができたりして(笑)

いずれにせよ現在は、

> 労基法違反が行われているが、労働者が争う意思が無く、また、労働基準監督署が立入りをする様子も無い

なので、そのあたりは問題にならないんでしょうね。
監督官に聞いたら「よくわからんけど、力士は申告にこないでしょ」と予想通りの回答が返ってきました(笑)

色々ありがとうございました。私もない知恵を絞り色々考えて少し疲れましたのでこのあたりで逃げます(^^ゞ


投稿: | 2008年9月17日 (水) 21:02

上記2つのコメント、名前が入っていませんでしたね。
何度も失礼いたしました。

投稿: 豆 | 2008年9月17日 (水) 21:05

>豆さん
たくさんのコメントありがとうございます(笑)
幕下以下の社会保険のところがよくわからないんですよねぇ。
給料がないから協会が負担する、というのはよくわかるんですが、給料がないのであれば標準報酬はどないして決まるんでしょう?
標準報酬の概念がない国民健康保険組合なんでしょうか?

年休の疑問は、怪我等でなく、単なるリフレッシュで稽古を休みたい場合どうなんやろうか?と思った次第です。
なんか不利益に扱われそうですが(笑)

プロ野球選手は『労働基準法における労働者ではないが、労働組合法における労働者』という不思議な扱いを受けてますね。
労基法上の労働者でないと解釈される大きなポイントは、道具(バット、グラブ等)を自分で調達すること、年俸を交渉で決定すること、の2点のようですが・・・
何か無理があるような。

投稿: にーの統括本部長 | 2008年9月17日 (水) 23:29

拝読させていただきました限り、
相撲に限らずスポーツ選手の労働形態は
かなり特殊ですね。

特に日本のスポーツ界は。

アメリカでは、労働組合や年金システムなど独自で作って運営してますよね。

相撲界はそんなことしたら「親に背くなんて」とかなるんでしょうね。歴史上ではかなり金銭闘争繰り返している業界ですけど。

投稿: S本 | 2008年9月18日 (木) 10:49

毎度です。。。。
ウチのサラリーもかなり、特殊です!!爆
私は勤続18年にして・・・・幕内入りたて位ですか・・・
横綱には一生なれませんし・・・・・どないかしてください。(笑)

投稿: MS-07Ari | 2008年9月18日 (木) 17:32

>S本さん
アメリカの労働基準法はカバーする範囲が広いらしく、プロ野球選手も保護を受けるみたいです。
ただ、カバーする範囲が広いけど、保護自体は薄いみたいですが。
相撲は確かに特殊ですよねえ。
中卒で右も左もわからない少年を連れてきて相撲だけガンガンやらせてたら、労組とか年金とかいうような考えは出てこないんとちゃいますかね。

>MS-07Ariさん
う~ん、MSさんの会社の社員の労働者性について一度考えてみましょうか(笑)
横綱は無理でも今、関脇くらいになってはるんじゃないんですか?

投稿: にーの統括本部長 | 2008年9月19日 (金) 01:13

面白いですね~。
税法においても、同様のアプローチで、給与か請負か、という判断がされますが、これを見ると、少なくとも十両以上の力士に関しては、給与としか考えられない感じですよね。
しかしながら、プロ野球の方は、給与ではなく、請負の形になっていますよね。
でも、プロ野球の方も、ここで書いてある判断基準に当てはめれば、ほとんど給与としか思えない感じで、なかなか興味深い感じですね。

投稿: かめやん | 2008年9月20日 (土) 19:19

>かめやんさん
正直労働者以外に取り扱うのが極めて困難やと思います。
幕下以下もかなり怪しいですが、ちゃんことか生活関連施設等を提供されているので現物支給で換算すると、最低賃金を上回っているのかもしれません。
んなこたぁないか。
しかも税法上はそれに対して課税が必要になりますよね。

プロ野球も1軍と2軍で違うような気がしますし、球団によってアンダーシャツ等の配給があるところと自腹のところがあるようで、道具を自分で調達する、という辺りも何やら怪しくなってきます。

投稿: にーの統括本部長 | 2008年9月21日 (日) 00:37

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